7明治後期の神田青物市場地主を調べてみると近くにある神田青物市場の組合長で民衆からも評判の良い村木喜助氏が所有する土蔵の焼け跡だということが判明、早速交渉したが相手にされない。二度三度足を運んだ。先方は面会さえしてくれない。十数度目に訪問した時主人は留守だと言われた。「ではお帰りになるまで待たせて頂きます」村木氏はやむなく会ってくれた。「私の大衆食堂は民衆のために必要です。必ず成功するという確信があります。後輩を指導する気持ちでお貸しくださいませんか。私が事業を始めるも始めないも、男になるもならないも、あなたのお返事一つにあります。」それでも村木氏は応じない。土地を貸すと借地権の問題が厄介だからだ。「材木はただで貰えます。建築費も私が負担します。出来上がった建物は無料で差し上げます。即ち、あなた様所有の建物で登記してください。私はその物件を借りることにします。ただ初めてする仕事ですから家賃は安くしてください。」耳を傾けていた村木氏は無名な青年の不敵な面魂(つらだましい)の中にピーンと打たれる気迫を感じた。『お前さん、年は若いが面白そうな人だな、しっかりやってみなせぇ!』土地が決まると父に報告、建築のことは兄誠一郎に一切を任せる。1日も早く開業すべし!】
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